コンピュータが自立的思考を行うAIが進化する世の中において、テクノロジーの進化に伴う時代の移り変わりは我々生身の人間が想像するよりも遥かに激しい。
そんな変わりゆく世界の中で、保険や投資商品といった、そもそも形のないもの流通システムも、ほぼオンラインで完結し、世界中の投資家が世界中から自由に自分にあった優れたものを購入できるような世界が来るのはそう遠い未来のことではなさそうな気がする。
我々は、そのような来るべき「クロスボーター・ファイナンシャル・トレード」の世界に適合していくことができるのだろうか?
海外のIFA(Indepenndent Financial Advisor)と呼ばれる、投資商品のブローカーは、世界の金融市場において、金融商品を組成するファンドハウスや保険会社のような金融商品のプロバイダーが生み出した商品を流通させる卸問屋のような機能を果たしており、急速にボーダレス化が進む世界の金融市場において、タックスヘイブンで組成されるインターナショナルな商品を世界中に流通させるハブのような機能を果たしてきた。
特に香港のIFAは、20年前の中国への返還以降、香港のみならずアジア全域でのオフショア投資商品や生命保険の流通ハブとして成長してきた。
しかし、ケイマン諸島のITA(インベスターズトラスト)のような、ほぼ完璧なECサイトを持ったプロバイダーが出現し、従来のような物理的に申込用紙にサインをしなければならないようなアナログな投資商品の契約形態は変わろうとしている。
そもそも香港で商品が認可されていないITAやRL360は、PIBAやCIBといった香港のライセンスを持った会社と仲介契約を結ばない方針でもある。
契約もオンライン、その後のファンドの管理も、アフターサポートもオンラインで完結するとすれば、どこにIFAなる仲介業者の介入余地が残されているのだろうか?
世界中のどこに住んでいるひとであろうが、ネット上で世界中の投資商品を閲覧し、自由に世界中から投資商品をオンラインで購入できる世界において、IFAの加入する余地は極めて限定されるかもしくは存在しないが、現実においてはまだ情報そのものが体系的にネット上には存在していないのと、プロバイダーと呼ばれる金融商品の組成及び提供会社が、オンライン販売を展開していない為、ローカル国におけるブランドや商品の普及、顧客の獲得に人的な作業が必要とされているため、ITAのような直販(BtoC)のシステムを持っているところですら今のところ集客とサポートをIFAに依存している。
また、一般的には、支払いや契約が長期に渡る積立商品や保険商品や養老年金商品に関しては、契約が存在している限り顧客への事務的サービスや顧客からのプレミアム支払い管理維持や、顧客への支払い手続きの仲介など、アナログな事務が多く存在し、それにかかるコストは半端ではない。
しかし、究極的には、プロバイダーがIFAに対して依存しなければならない部分は、新規の顧客獲得における営業だけであり、それぞれの管轄国において、それが合法であれ違法であれ、誰かが営業を行って契約を取ってこなければならず、その最も危険な営業の部分はそれぞれの国のビジネスパートナーと呼ばれる紹介者(イントロデューサー)にIFAは依存している。
つまり、プロバイダー → IFA → イントロデューサーという下請けシステムによって新規顧客の獲得が行われており、最も危険で重要な顧客獲得業務を行うイントロデューサーが最も多く手数料を取る形になってしまっている。
その結果、IFAに残される仲介手数料は全体の20%にも足らず、多くのIFAは生産性の無い事務オペレーション機能にコストを割くことができなくなっている。
新規顧客の獲得は、有力なイントロデューサーの獲得にかかっており、多くのIFAは間抜けなことに報酬をつり上げて強力なイントロディーサーの他社からの獲得や確保に勤しんだあげく、さらに運営資金が枯渇してサポートを提供できなくなるという悪循環に陥っている。
プロバイダーが各国の業法によって規制される危険地帯であるブランディングと顧客獲得をIFAに依存するが故にこのような悪循環が発生してきたといえる。
そんな中、香港で唯一IFAとして香港の株式市場に上場していたコンボイ(Convoy Global Holdings Limited 証券コード1019.HK)という会社の役員が、香港汚職取り締まり局(ICAC)に拘束され、その情報によって急落した株はそのまま取引停止となった。
株式の操作によって役員が不正に利益を享受していた疑いと言われている。
今回の操作は、奇しくもSFCとICACという部門の異なるエージェントの協力による初めてのインターエージェント捜査のテストケースとなったようだ。
今後コンボイが会社として具体的にどうなってしまうかはまだわからないが、少なくとも唯一香港で上場していたIFAの汚職が暴かれた時に、その会社の威厳や信用は顧客にとって無きものと化すことだろう。
そのような会社から出資を受けているNWBはどうなのか?も気になるところだ・・・。
このような事件は、金融ブローカーというビジネスがどこまでいっても真っ白にはなれない悲しい現実を如実にあらわしており、顧客が信用できるものが会社の上場ですらないことを物語っている。
我々は顧客として、信用に値する会社に自分の投資を仲介してもらいたいと願い、そしてその会社や会社のスタッフから長期にわたるサポートを受けることを期待している。
ところが、IFAの収益源はほんの僅かな仲介手数料の残りカスしかなく、おまけに紹介者が放置した顧客へのサービスを提供するコストは増大する一方である為、収益性は低下し、場合によっては廃業を余儀なくされるありさまだ。
大手のコンボイですら、上場を果たしたとはいえ、株の取引を悪用した何らかの不正行為を行わなければ役員は儲けることができなかったのかもしれない。
私が長年に渡って利用しているGRANDTAG(グランターク)というIFAも、香港市場での上場を目指してこの数年頑張ってきたようだが、今年一旦それを断念した。
香港市場での上場を断念せざるをえなかった最大の理由は、やはりIFAビジネスが業法的に高度な規制を受けることであり、国を跨いだ取引の仲介に関しては、さらにその線引きが複雑であることがあったと思われる。
しかし、根本的に上場を目指す上で、利益を生み出し続ける事が可能な勘定可能な実体資産を持っていないIFAという業態は、業法による規制の煩雑さもさることながら、致命的に上場に向いていない。
上場はともかくとして、収益性の悪いIFAビジネスが、今後生き残るとすれば、「B to B」という名の顧客紹介に依存する体制から解脱して、独自の集客力を持ち、独自の顧客サポート体制を構築するしかないだろう。
しかしながら、プロバイダーもIFAに頼るところは、集客の部分だけなので、当然同じ事を考えるに違いない。
プロバイダーよりも先に、IFAのブランディングを対象市場に対して行い、ある一定のシェアを獲得するのがIFAの生き残り戦略としては有効だと私は考える。
しかし、IFAの直面している現実は決して予断を許さない。
おそらく、殆どのIFAは、そういった将来の予測ができず、また自分たちの安全地帯から出ることもできず、ビジネスパートナーに翻弄され、また上場などという顧客にはどうでもよい間違ったゴールを目指したりと、迷走するばかりだ。
そういえば、ハリスフレイザーという比較的手堅いビジネスを営んできたIFAは、最近グループ全体を香港の上場企業Mason Group Holdings Limited(0273.HK)に売却してしまった。
ハリスフレイザーにも、相当数の日本人顧客が居ると思うが、来年以降IFAのビジネスがどのようなスタンスになるかはわからないが、上場企業のグループ下では、ITAやRL360といった香港で未認可のグレー商品を扱うことは難しくなるだろうし、香港籍の保険商品を渡航前提とはいえ日本居住者に販売することも問題になるかもしれない。
「オフショアの投資商品を購入する」という、たとえば日本に住む人たちの僅かばかりの賢明な諸君らが、自分たちの将来の生き残りをかけて踏み出すほんの一歩を、ちゃんと受け止めてくれる信頼できるIFAが、海外に少なくとも1社あれば、今のところはそれで十分なのだ。
顧客からすれば、もはやそこがライセンスを持ったIFAだろうが、ライセンスの無いモグリの仲介会社だろうが、プロバイダーから直接だろうが、とにかく買えれば良い。
そして、責任を持って契約中のサポートをちゃんと日本語で提供してくれれば文句はない。
所詮信頼できるかどうかは、ひと次第だが、だからといって、窓口が1人しかいない個人とは取引できない。
だからといって何100人も社員が居いる会社である必要も無い。
適当な規模の安定した会社が好ましい。
そんなにすぐではないににしろ、IFAを超越した互助組織のようなものが必要になってくるかもしれない。
新規の契約に関して、理想はプロバイダーからオンラインで直接購入できるシステムだが、プロバイダーは集客はできないので、Airbnbのように顧客のニーズとプロバイダーをマッチングさせるオフショアオンラインブローカーサイトがあればそれで十分だ。
問題は、アフターサービスの類と言える。
投資商品の契約におけるアフターサービスで、最も面倒なのは、「契約責任におけるクレーム対応」だろう。
契約時に顧客が商品の内容を良く理解せず購入したことに起因するクレームには、「もっと増える筈だったのに儲かっていない」とか「解約のペナルティーについて全く理解していない」などがあるが、このような基本的なクレームにすら対応する能力は殆どのIFAにはない。
なぜなら、IFAから直接説明を受けて購入してるひとが少ないからだ。
IFAではなない誰かから説明を受けて購入した場合、IFAはその説明責任をその紹介者に転嫁するが、本来それはIFAの責任である。
プロバイダーは、もちろんIFAにその責任を転嫁しるが、それはプロバイダーとIFAの契約の中で合法的に成り立っている。
しかし、IFAと提携している紹介者が日本に居る場合は、日本の業法上、販売や勧誘を目的とした商品の説明も仲介もできないので、ちゃんとやったとしても違法行為となってしまう。
金融商品を購入するというのは、ユニクロで服を買うのとは違う。
別にユニクロをバカにするわけではなく、単に金銭的な意味でである。
商品の内容を良く理解せずに夢や希望だけで購入すると、間違いなく後で問題が起こる。
そしてその問題は面倒くさいので、だれもケツを拭きたくない問題だ。
将来自分で、投資商品を海外から直接購入する時代には、購入者にそれなりのリテラシーが要求されることは間違いない。
ただ、諸々の後から付いてくる面倒くさい事務処理に関しては、殆どがオンラインで処理可能となるはずだが、全てがオンラインで片付くかどうかは今の時点では疑問だ。
廃業したり、サポートを放棄したIFAのケツを拭く、有料のサポートサービスというのが一般的になる時代が来るのかもしれない。
金融業界に限った話では無いにしろ、特に金融業界では、「金にならんことは誰もやろうとしない」という悪しき風習があるのは事実だ。
そして、IFAのビジネスを支えているのは新規の契約から得られる仲介手数料しかないのだ。